人生100年!生涯エンジニア人生!

楽しいエンジニア人生!

【JR東日本】時間帯別運賃は実現可能か?

概要

時間帯別運賃が話題になりました。
www.itmedia.co.jp

JR東日本の深沢祐二社長は7日の定例会見で、新型コロナウイルスの感染拡大後、運賃収入が減少していることを踏まえ、運賃制度の見直しに向けた議論に着手する考えを示した。

JR東日本の現状を考察しつつ、時間帯別運賃導入は可能か?そして、可能であれば実現に向けて何をしなければならないのか?
その辺りを書いてみます。
※この分野の専門家ではないので、間違いなど有りましたら、ご教授願います。

運賃収入減収はどれぐらいあったのか?

運賃収入減収について確認します。
どれだけ減収したのかは、報道記事などから探すと、以下のような報道記事が有りました。
www.sankeibiz.jp

4~6月の鉄道事業の売上高は、定期券販売を除き前年同期比で計約2640億円減少するとの見通しを示した。

約2,640億円の減少のようです。

約2,640億円の減少と言われても、凄い額であるぐらいしか解らないと思いますので、JR東日本という会社は、どれぐらいの規模で会社を運営しているのか調べてみます。
JR東日本の売上などの速報値以外はIR情報から見るのが早いので、3兆円を超えるという過去最高の売上を記録した「2019年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」を確認します。

読みやすく単位を揃えると、こんな感じになります。
1. 売上高 3兆20億4,300万円
2. 営業利益 4,848億6,000万円
3. 経常利益 4,432億6,700万円
4. 当期純利益 2,952億1,600万円

ちょうど比較しやすい金額が当期純利益 2,952億1,600万円です。
ここから言えることは、2019年3月期の当期純利益に匹敵するレベルの減収が、2020年4月〜6月の鉄道事業売上に発生していることになります。
なお、JR東日本はグループ会社として、ホテル事業など多くの関連事業を持っており、それらも減収が考えられるので、2019年3月期の当期純利益などは簡単に吹き飛んでしまうだろうと思われます。
3兆円企業において、当期純利益分の売上が消えてしまったと見ると、コロナの影響は計り知れないです。

2020年7月30日更新分

2021年3月期 第1四半期決算短信が発表されました。

www.jreast.co.jp

2021年第1四半期純利益が1,553億7,700万円の赤字になりました。
2020年第4四半期純利益が2,952億1,600万円の黒字だったので、半年で4,505億9,300万円減少となりました。

時間帯別運賃の実現可能について回数乗車券から考える

それでは、時間帯別運賃は実現可能であるか探っていきます。
※基本的に全て初乗り運賃で考えます。
※ロンドンで導入されている時間帯別運賃はざっくばらん過ぎるので一切参考にしません。

時間帯別運賃を実現するための参考になるのが、私鉄各社で近いことを既に行っており、時差回数乗車券、土・休日割引回数乗車券というのが存在します。
こちらはIC運賃の設定は無く、きっぷ(紙)のみです。
www.tokyometro.jp

時差回数乗車券の利用時間は10時から16時で、回数乗車券は割引額はまとめると以下の通りです。

  1. 普通回数乗車券は10枚分の購入額で11枚分
  2. 時差回数乗車券は10枚分の購入額で12枚分
  3. 土・休日割引回数乗車券は10枚分の購入額で14枚分

なお、小田急には「小田急チケット10」という企画券があり、回数乗車券と同じとみなします。
詳細はURLを確認してください。

www.odakyu.jp

なお、JR東日本では普通回数乗車券の設定しか無いです。

www.jreast.co.jp

山手線の初乗り運賃は140円(きっぷ運賃)なので、普通回数乗車券は1枚当り約127円、その差額は約13円です。
仮にラッシュ時間帯の値上げを回数乗車券で考えてみると、普通回数乗車券10枚分の購入額で9枚分に相当すると推測してみます。
そうなると約156円となり値上げ額は約16円程度(約11%の値上げ)となります。 この値上げ幅は妥当かどうかに関しては、消費税10%課税された感覚に近いとので、妥当性はあるんじゃないかと思います。

時間帯別運賃が実現可能に見えてきました。

ついでに言うと、利用時間の10時から16時というのも利用者が納得しやすい時間に設定すれば良い気がします。
この辺りは、私鉄各社で時間帯が異なってしまうと接続ターミナル駅に人が集まるとか、他社線乗り入れは対象外になるとか利用者に優しくないことが発生しまう可能性が発生するので、私鉄各社と連携してほしいところです。

加算普通旅客運賃を考慮する

※ここから話が複雑になっていきます。

普通回数乗車券を元ネタに時間帯別運賃を考えてみましたが、これで行けるだろう!と思うのは甘いです。
旅客運賃は沼の世界で、とても複雑な世界で妄想するには最適な世界です。
まずは、加算普通旅客運賃というのを考慮してみます。

普通旅客運賃には、距離応じた運賃の他に、加算普通旅客運賃というのが存在ます。
www.jreast.co.jp

加算普通旅客運賃に時間帯別運賃の設定が必要かどうかの議論があると思いますが、時間帯別運賃が混雑緩和と収益増が目的であるのならば必要と感じております。
なお、2020年7月の時点でJR東日本には加算普通旅客運賃の設定は無いですが、2027年度に向けて羽田空港アクセス線が建設される予定が有るので、ここに加算普通旅客運賃が発生すると推測しております。
この辺りは、2027年度に向けて考慮すべき項目かと思います。

羽田空港アクセス線については、グループ経営ビジョン「変革 2027」についての12ページ目の「【トピックス】羽田空港アクセス線構想の推進」に記載有ります。

特定区間運賃を考慮する

どんどん複雑になっていきます。

普通旅客運賃には、輸送密度などに応じて以下の区分が存在します。
1. 幹線
2. 地方交通線
3. 電車特定区間
4. 山手線内
5. 東京付近の特定区間
6. 幹線と地方交通線とを連続して乗車する場合

普通旅客運賃は、5を除く区分において、距離による普通旅客運賃を決めています。
今回の時間帯別運賃に関する報道を見る限り、該当する区分は「電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」辺りかと思われます。

次の項目から「電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」に関して考慮してみます。

電車特定区間」と「山手線内」を考慮する

電車特定区間」と「山手線内」のルールはこちらになります。
www.jreast.co.jp

次に定める賃率によって第77条第1項第1号及び同条第2項の規定を適用して計算した額と、その額に100分の10を乗じ10円未満のは数を円位において切り上げた額とを合算した額

上記のURLを参考にすると、割引運賃は「1キロメートルにつき 12円15銭」から「1キロメートルにつき 15円30銭」の範囲になりますが、上記のルールにより、20円の割引となります。

電車特定区間」と「山手線内」は利用者の多い線区でかつ競合他社が存在するところに割引運賃を設定しています。
回数乗車券の項目で約16円の値上げの前提を書きましたが、「電車特定区間」と「山手線内」において時間帯別運賃のラッシュ時間帯の運賃設定を行えば、値上げというより運賃がラッシュ時間帯には20円の割引が約4円まで減る感じになります。

このような感じの設定をしても、一般利用者には値上げに見えてしまいます、この辺りはJR東日本のアピールの仕方がキモになってきます。
ただ、このような感じで時間帯別運賃を設定すれば、利用者にも理解が得られやすいんじゃないかなと思います。
しかし、まだ考えなければならない点があります。

※「電車特定区間」と「山手線内」の運賃設定は、電車特定区間内相互発着(山手線内を含む)のときだけ有効で、例をあげると埼京線で「さいたま新都心駅」から「大宮駅」に行ったら 「電車特定区間」ですが、「さいたま新都心駅」から「日進駅」に行くと「電車特定区間」の計算では無く「幹線」の計算になります。

「東京付近の特定区間」を考慮する

東京付近の特定区間も割引運賃になります。
普通旅客運賃(東京付近の特定区間)

距離により運賃では無く、特定の駅間を設定した割引運賃です。
例えば、渋谷駅から横浜駅は、山手線&東海道線を使っていくと距離は29.2キロ(距離計算では端数切り捨て)です。
※余談ですが、湘南新宿ライン経由で行くのが普通だろ!とツッコミがあると思いますが、湘南新宿ライン武蔵小杉駅新川崎駅を通る品鶴線を使用するのですが、距離は品鶴線経由の方が長く32.1キロで、「電車特定区間」での運賃計算のルールでは最短距離で計算するのがルールなので、品鶴線を利用していても山手線&東海道線を利用したと運賃計算します。

東京付近の特定区間として400円(きっぷ運賃)が設定されていますが、 幹線の29キロでの運賃は510円(きっぷ運賃)で、電車特定区間(計算が面倒なので山の手線内は無視した)の29キロでの運賃480円(きっぷ運賃)なので、大幅な値下げをしております。
値下げを行っていても、東急東横線で渋谷駅から横浜駅までは運賃280円(きっぷ運賃)なので、時間帯別運賃を設定する際に競争力を失ってしまう可能性があり、回数乗車券の項目で書いた約16円の値上げ前提というより、「東京付近の特定区間」は別立てで時間帯別運賃を設定する方が良いかもしれません。

これからを考慮して定期乗車券の設定

定期乗車券も、普通旅客運賃と同じ区分が存在するので、同じように「電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」を考慮した時間帯別運賃を設定(約11%の値上げ)すれば良さそうな気がします。

状況に応じて考慮すること

電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」において、時間帯別運賃を設定すれば良いと話を進めてきましたが、状況に応じて「 幹線」「地方交通線」にも時間帯別運賃の設定も必要かと思います。

ただ、これをやってしまうと「幹線」では乗車時間が長い新幹線などの運賃が高騰するので、あまり良いとは思えないです。
地方交通線」に関しては、そもそもJR東日本で収入が少ないところで値上げをすると、利用者離れと、学生への交通費補助をしている自治体などは負担増となり、こちらもあまり良いとは思えないです。

時間帯別運賃の差額分の扱い

時間帯別運賃は、以上のことを考慮していけば設定ができそうな気がしてきましたが、まだ考慮しなければならないことがあります。
ラッシュ時間帯以外の普通乗車券、または定期乗車券のとき、ラッシュ時間帯に乗車するときは差額運賃が発生します。
そのときは、乗車できるのか?乗車できないのか?また、差額分を出せば乗車できるのか?その場合は乗車時なのか下車時なのか?
関東においては、初乗り運賃が無いときは乗車できないルールが多いので、これに準じて差額分を出せば乗車できるが、その差額分は乗車時に支払うが一番理解しやすいかな?と思います。

運行停止などのトラブル時の扱い

ラッシュ時間帯以外の普通乗車券で乗車するとき、トラブルによる運行停止の扱いも考慮しないといけません。
運転再開時に、ラッシュ時間帯に入ってしまったら、どのような扱いにするのか?
明らかな運行停止のときは、ラッシュ時間帯でも乗車できるようにするのが理想ですが、その辺りのルールも明確にしないといけないと思います。

特定の都区市内駅を発着する場合の特例

電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」を考慮してきましたが、実は、まだ割引運賃は存在します。
それは「 特定の都区市内駅を発着する場合の特例」です。
www.jreast.co.jp

長距離移動時に、きっぷで「区」「浜」「阪」の表示を見たりしていると思いますが、新幹線などに乗るときに見かけるアレです。

www.jreast.co.jp

このルールは201キロを超えるときは中心駅までとする制度です。 この制度で201キロ超えるところから、東京に行くとき、蒲田駅だろうが、西荻窪駅だろうが、23区内の駅なら、どの駅でも降りることができます。
例えば、東海道新幹線で東京に着いたとき、西荻窪駅で下車すると東京駅から西荻窪駅までの運賃400円お得になる感じになります。
つまり、形は違うにしろ「特定の都区市内駅を発着する場合の特例」は割引運賃に相当する物になります。

このため「えきねっとトクだ値」においては割引が複数になるのを避けるため「特定の都区市内駅を発着する場合の特例」が適用されません。

www.eki-net.com

※新幹線に設定されている「えきねっとトクだ値」には「(東京都区内)、(山手線内)、(仙台市内)」などの特定都区市内制度は適用となりません。在来線区間については、別途有効な乗車券が必要となります。

このことがあるので、ラッシュ時間帯においては新幹線発着駅のみになる可能性、または「特定の都区市内駅を発着する場合の特例」に関する運賃改定があるかもしれません。

運賃改定に関しては認可が必要

やっと全ての運賃に関しての考慮が完了しました。
そうしたら、次は申請します。
公共交通機関の運賃改定は認可が必要です。
詳細は国土交通省のサイトに記載があります。

www.mlit.go.jp

「JR旅客会社、大手民鉄及び地下鉄事業者の収入原価算定要領」が該当します。

これに関する資料を作成して国土交通省に審査してもらい認可をもらいます。
既にJR東日本が記者会見しているので、この辺りは既に進めているのかもしれません。

時間帯別運賃の導入タイミング

国土交通省の認可が終わったら、次は実際に運賃を設定します。

運賃徴収は、どうなっているかを知らないと推測は難しいです。 参考資料はIT・Suica事業で、Suica出改札システム取扱機器の項目を見ると、自動改札機はSuica駅サーバーにつながっており、そこからSuicaネットワークを介してSuicaセンターサーバーにつながっています。
このことから、Suicaセンターサーバーに設定した運賃ルールを、Suica駅サーバーと自動改札機に展開していくことになると思います。

ついでに、2017年度の鉄道統計年報の「(10)停留(留)場電気設備表」の項目を確認する。
www.mlit.go.jp

JR東日本において自動改札機は4,974台設置で、自動改札機を設置する環境は一般的なネットワークだと推測すると、全ての自動改札機にロールアウトするには、それなりの時間がかかると予想する。
※自動改札機のソフトウェアバージョン確認は駅員さんと、Suicaセンターサーバーの担当者が行う想定です。

実際に過去の「消費税率引上げに伴う運賃・料金改定について」などを確認すると、2019年7月2日にアナウンスして、2019年10月1日に運賃改定になっているので、駅員さんにも周知するなども含めて3ヶ月かかるものと推測される。

以上のことから、運賃改定決定後から施行までは最低3ヶ月必要で、Suicaセンターサーバーの設定は、いつ行っているのかは推測不可能ですが、3ヶ月より前だろうと推測される。
国土交通省への審査や、Suicaセンターサーバーに関しての開発やテスト期間などを無視しても、今から変更をかけても2020年10月以降になる。
また、国土交通省への審査や、Suicaセンターサーバーに関しての開発やテスト期間が半年かかると推測すると、9ヶ月かかるので2021年1月以降なので、今年2020年に導入される可能性は低いです。

まとめ

  1. 時間帯別運賃は回数乗車券から考慮すると、1回乗車につき約16円以内(約11%の値上げ)なら可能性がある。
  2. 時間帯別運賃は私鉄各社と連携して時間帯を再設定する必要がある。
  3. 加算普通旅客運賃に関しては、2027年度までに時間帯別運賃を、どのように扱う考慮する必要がある。
  4. 電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」の区分において時間帯別運賃を設定する可能性がある。
  5. 上記において既に20円の割引運賃を設定しており、回数乗車券から考慮と合わせると、結果として「幹線」より約4円の割引運賃となる。
  6. 定期乗車券については「電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」の区分において時間帯別運賃を設定(約11%の値上げ)する可能性がある。
  7. 時間帯別運賃のラッシュ時間帯以外の乗車券において、ラッシュ時間帯に乗車したときの差額分の扱いを考慮する必要がある。
  8. 時間帯別運賃のラッシュ時間帯以外の乗車券において、列車が運行停止して、その後、運行再開してラッシュ時間帯に入ったときの乗車可否や差額などを考慮する必要がある。
  9. 経営状況に応じて「電車特定区間」「山手線内」「東京付近の特定区間」の区分以外でも実施する必要がある。
  10. 「特定の都区市内駅を発着する場合の特例」の扱いに関してルール変更、または運賃改定の可能性がある。
  11. 認可には時間がかかる。
  12. 時間帯別運賃のシステム導入も時間がかかる。

以上から、私の結論としては時間帯別運賃は実現可能!とさせていただきます。
本来は、コロナウィルスが撲滅して、以前と同じにならなくても良いが、移動が楽しいと思える世界が戻ってくることを切に願うのでありました。